2022年 7月、8月(65号)

特別展

開館10周年記念特別展
<再び、つなぐ:みんなが安全になるまで>

開館10周年を迎えた大韓民国歴史博物館では、2022年9月8日から2023年1月31日まで、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行の歴史をテーマにした特別展を開催する。今回の展示では、新型コロナの大流行を機に、世界史的な観点から人類が経験した感染病の歴史をたどる。「パンデミックの時代」を生きる私たちには信頼に基づく「協力と連帯」の努力が必要不可欠であることを示す内容を国連や世界保健機関(WHO)の国際的な認識でもある「No-one is safe until everyone is safe(すべての人が安全でなければ誰も安全ではない)」というメッセージとともに伝えている。また、文化体育観光部と韓国文化芸術委員会が共同で、新型コロナが変えた私たちの日常を芸術家の視線で記録した<新型コロナ、芸術として記録&rt;も公開する。

2019年12月、中国で報告された原因不明の肺炎が周辺のアジア諸国、そして世界へと広がった。翌年の2020年に正式名称「COVID19」と命名され、同年3月には世界保健機関(WHO)により世界的な大流行「パンデミック」宣言が行われた。感染や後遺症といった人的被害は現在も続いており、全世界に及んだ経済・社会的損失は人類の歴史に残るほど大きいものとなっている。

ウイルスなどの病原体は自己複製と増殖ができず、ヒトを含む動物に感染して繁殖し、生存する。人類は、地球上に登場した瞬間から様々な病原体にさらされてきた。農耕生活、定住、そして都市を形成して暮らすようになるにつれ、ますます多様な病気が現れ、感染病は人類にとって常に脅威となってきた。ワクチンや抗生物質といった医学技術の目覚ましい発展により、人類は感染病から解放されるかもしれないという希望を抱いたこともあった。しかし、期待とは裏腹に、HIV感染症・エイズ(AIDS)や鳥インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、新型インフルエンザ、エボラ出血熱など新しい感染症が次々と登場し、パンデミックは続いている。そして、その発生サイクルはむしろ短くなっている。

スペイン風邪流行当時、ペットと一緒にマスクを着用している家族の写真
©カリフォルニアオンラインアーカイブ(OAC)

「天然痘の撲滅」を宣言した世界保健機関の雑誌『ワールドヘルス(WORLD HEALTH)』、
1980年5月号表紙

いずれ終息すると期待されてきた新型コロナのパンデミックは今も続いている。いわゆる「パンデミック時代」を生きる私たちにとって必要なものとは何だろうか。世界各国がつながる現代社会において、特定の国や場所を遮断したところでその問題解決にはならない。私たち全員の連帯と協力の重要性が浮き彫りになっている。新型コロナを克服するために、そして今後やってくるであろう新たな脅威に備えるため、私たちはほどけかけている協力のひもを「再び、つなぐ(re-connect)」必要があるのではないだろか。パンデミックの終息は終わりではなく、次のパンデミックに備える長い旅の始まりを意味する。今回の特別展が、パンデミック時代を生きる私たちにとって必要なものは何かについて、じっくり考えるきっかけになることを願ってやまない。

  • パンデミック特別展ニュース

インタビュー

「学芸員」を理解するために努力する -
韓シルビ学芸員(資料管理課)、
李道源学芸員(展示運営課)

学芸員は、歴史という学問を絶えず研究し、それを多くの人に効果的に伝える方法を考える。学問の深さと広さを共有する楽しさがあるという点で、大変だがやりがいのある仕事だろう。「学芸員」としての仕事の価値を理解するために、今この瞬間も頑張り、努力している韓シルビ(ハン・シルビ)学芸員、李道源(イ・ドウォン)学芸員に話を聞いた。

Q. 学芸員として、今後やってみたいことが多いのでは?

ハン| 大学で勉強していた頃から、普通の人々の物語が中心となる歴史に興味がありました。近現代史を扱う大韓民国歴史博物館は、ちょうど同時代の人々の物語も一緒に紹介しています。歴史の現場が収められたデジタル資料をきちんと管理・保存し、未来の世代へしっかりと引継ぐことができればと思っています。そして、機会があれば、それらの資料をもとにした展示を構成しても面白いかなと思います。

イ| 家族連れの来館者が多いのは嬉しいのですが、「MZ世代」と呼ばれる若い層の支持を得るまでにはまだ至っていないと思います。美術館へは、若い人たちも気軽に訪れ、ソーシャルメディアなどに写真を掲載したりしますよね。ところが、大韓民国歴史博物館は歴史を扱っているためか、内容が多少重いという認識があるようです。最近の展示のトレンドを取り入れながらも、大韓民国歴史博物館ならではの試みによって、「博物館は堅苦しい」という認識を改めることができればと思います。

Q. 最近は主にどのようなデジタル資料を取り扱っていますか。

ハン| 当時の社会の主要な課題をテーマにした空間や現場を主にその対象としています。例えば、先の大統領選挙の現場や、最近行われた障害者に対する差別の撤廃を求める地下鉄デモの現場などです。特定の出来事をみつめる視線は様々であるため、そのどれかに偏らず、中立的な視点で眺めることが重要だといえます。

Q. テーマ館の展示演出が気になります。

イ| 美術館は気軽に行くことが多いですが、博物館は「勉強をしに行くところ」という一部の認識があり、それを覆さなければならないと思っています。そのため、私は、多くの人が気軽に訪れることができる展示を企画してみたいと思ってきました。テーマはどうしても重くなりますが、それを簡単で多彩に表現したくて、インタラクティブをはじめとする様々なデジタル要素を取り入れました。文章ではなく、観覧客の動きによってメッセージを表現する方が、最近の若い人たちにはより効果的に伝わると思います。

歴史の中の今日

朝鮮戦争の戦況を変えた決定的瞬間:
仁川(インチョン)上陸作戦

作戦遂行中のマッカーサー将軍と米海兵隊員、
©国家記録院

北朝鮮の奇襲により始まった朝鮮戦争は、米国が即時介入し、内戦ではなく国際戦へと発展した。仁川上陸作戦は、朝鮮戦争初期の最も注目すべき作戦とされている。この作戦をきっかけに、北朝鮮軍の南進の勢いは落ち、戦争の様相そのものが変わったからである。9月15日に仁川上陸作戦が開始され、28日にソウルを取り戻すまでの緊迫したストーリーを振り返ってみよう。

朝鮮戦争初期、強大な兵力と武器を前面に押し出した朝鮮人民軍は、奇襲攻撃により優位を占めた。そのため、国軍と国連軍は劣勢に立たされることになった。北朝鮮は南進を続け、韓国の領土の90パーセントほどを掌握する。そこで、国連軍が立てたのが上陸計画だ。この時、ダグラス・マッカーサー将軍は、北朝鮮軍の後方を完全に断つためには仁川しかないと判断した。ソウルに接近できる最短距離の港があり、仁川から攻め入ってソウルを奪還することで敵に心理的な打撃を与えるだけでなく、北朝鮮軍の補給船を遮断することもできるからである。さらに、仁川と洛東江(ナクトンガン)の戦線で同時に反撃すれば、味方の犠牲を最小限に抑えながらも最大の成果を収めることができると考えた。1950年9月15日、暗号名「クロマイト作戦」、別名「仁川上陸作戦」が実行される。8カ国261隻の艦艇と第10軍団で編成された大規模船団が投入された。仁川に上陸した国軍と国連軍は、2000人ほどの北朝鮮軍を制圧して仁川を奪還する。そして、9月28日にはソウルを完全に奪還することになった。

仁川上陸作戦のために仁川港に降りる米第7歩兵師団、
©国家記録院

仁川上陸作戦を報道した米紙<The Sun>、1950年9月18日付、
©大韓民国歴史博物館

仁川上陸作戦は、朝鮮戦争の戦況を一転させることに貢献した。洛東江まで押され、窮地に追い込まれていた国軍と国連軍は、この作戦をきっかけに主導権を手に入れたのだ。当時、朝鮮半島では、北朝鮮と韓国の間の大量輸送が可能な交通手段は、どれもソウルを通らなければならなかった。そのため、仁川上陸作戦とソウル奪還の成功は、南に進撃した北朝鮮軍への補給が絶たれただけでなく、北朝鮮軍が洛東江戦線と仁川~ソウルを掌握した国軍と国連軍に包囲されたことを意味するものだった。多くの軍事学者がこの作戦を20世紀最高の軍事作戦と評する。仁川上陸作戦は、韓国軍と国連軍が協力して作り出した決定的瞬間として長く記憶されるだろう。

博物館レビュー

実感映像で触れる韓国近現代史の中の広告

8月16日(火)から、テーマ館Ⅱの展示<広告、世界に向けた告白>では、2つの実感映像を新たに公開している(第3部「とてもきれいです」、第4部「奇跡か、技術か」)。また、床面映像とインタラクティブ要素を追加し、コンテンツの没入感を高めた。これらの映像は、それぞれ「ファッション広告から見える近現代ファッションの流行と消費」、「家電製品広告がもたらした日常の変化」というテーマを実感コンテンツで具現化したものだ。当時を再現した景色とともに、多くのファッション・家電製品の広告が展示され、大衆の消費文化と流行を紹介している。ファッション広告を通じてファッションの消費によって変化した私たちの美意識に触れ、家電製品広告を通じては新しい技術によって実現した便利な生活について知ることができる。

  • 特別展オーバービュー
  • 展示ティーザー

安重根(アン・ジュングン)義士の教育哲学がわかる遺墨、「宝物」に指定される

6月23日、大韓民国歴史博物館が所蔵している安重根義士の遺墨「黄金百万両不如一教子」が国家指定文化財宝物に指定された。これは1910年3月に旅順刑務所に投獄されていた安重根義士が書き、当時の旅順刑務所の驚守係長に贈ったものである。「黄金の百万両も子供一人を教えることに及ばない」という意味で、安重根義士が普段から実践していた教育哲学を知ることができる。文化財庁は、歴史的な価値があり、保存状態が非常に良好だとして、この遺墨を宝物に指定すると明らかにした。

博物館プレビュー

市民が参加する9月の文化公演<今は光化門歌手時代>

大韓民国歴史博物館では開館10周年を迎え、市民を対象にしたコンテスト<今は光化門(クァンファムン)歌手時代>を9月24日午後5時に開催する。近現代史と大韓民国歴史博物館に関心がある市民なら誰でも参加可能だ。参加を希望する人は、好きな曲を歌う様子を動画で撮影し、提出する。本選では、事前公開動画に対する市民の反応も考慮して審査が行われる。大韓民国歴史博物館は、今回のコンテストを機に「誰もが気軽に訪問し、楽しめる博物館」を目指していく。

National Museum of Korean Contemporary History Newsletter 2022年 7月、8月 (65号) / ISSN 2733-7138
198 Sejong-daero, Jongro-gu, Seoul, 03141, Republic of Korea / 82-2-3703-9200 / www.much.go.kr
Editor: Lee Seungjae, Kim Hyunjung, Lee Jihye, Lee Soojin, You Rial
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