2022年 5, 6月 (64号)

展示紹介

韓米国交樹立140周年記念展示
<朝米修交と太極旗>

大韓民国歴史博物館は、今年初めから1階ロビーにて小規模の展示を開催している。最初の展示では三一節(1919年に朝鮮の人々が独立宣言書を発表し、日本の植民統治に対する抵抗と独立の意志を示した3.1運動を記念する祝日)103周年を迎え、上海大韓民国臨時政府が発行した『独立新聞』のうち大韓民国歴史博物館が所蔵している5つの号を紹介した。5月からは韓米国交樹立140周年を記念して<朝米修交と太極旗>と題する展示を行っている。

朝鮮(1392-1910)は19世紀末に外国と国交を結び始めた。朝米修好通商条約(1882年5月22日)は欧米有力国と最初に締結した条約である。条約締結140周年を記念して開かれる今回の展示では、当時考案された太極旗の図案が紹介されている。2018年に米国議会図書館が所蔵する『シュフェルト文書(Shufeldt Papers)』から見つかった太極旗の図案と、当博物館が所蔵する米海軍省航海局の『海洋国家の旗(Flags of Maritime Nations、(1882)』に収録されている太極旗の図案の観覧が可能だ。これらの図案は、太極旗に関する資料としては最も古いもので、同展示は8月4日まで開催される。

歴史ハッシュタグ

激動の時代における職業の変化:
1960~80年代の職業の変遷を中心に

大韓民国歴史博物館3階常設寄贈館では、<仕事によって明日を夢見る>というタイトルのもと、1960~80年代の仕事と職業に関する寄贈資料を展示している。大韓民国の高度成長期とされる1960~80年代にどのような職業が登場し、また消えていったのかが紹介されている。

1960~70年代の産業・交通手段とともに変遷した職業生態系

1980年代まで、韓国で石炭は人々の暮らしと産業の全般において主なエネルギー源として使われていた。そのため炭鉱で働く人が多く、当時の給与はかなり高かったという。しかし、1980年代以降、主要エネルギー源が石油に移行したため石炭の需要は徐々に減り、炭鉱労働者の数も減少の一途をたどる。また、1970年代には紡績工が輸出を担う重要な職業として浮上した。繊維産業とともに衣類・縫製産業も発達し、ミシン縫製工、スーツ裁断士なども人気の職業として脚光を浴びる。しかし、人件費上昇による工場の海外移転、大企業のアパレル産業進出などが進んだため、存在感が徐々にうすれていく。

一方、この時期には、公共交通機関の変化に左右された職業もあった。韓国では1899年に路面電車が初めて開通し、主要な交通手段として定着した。ところが、1950年代後半から自動車とバスが急増したため、路面電車は1968年に運行中止となる。それに伴って電車運転手という職業も消えた。その後、市内バスとタクシーが急増し、バスとタクシーの運転手という職業が成長する。また、1974年には地下鉄の開通とともに地下鉄機関士も登場した。そして、バスの利用増加とともに1961年にはバス案内嬢制度が登場する。バスに乗るために長く列をなした人たちをバスの中に押し込み、自分は扉につかまって元気よく「出発」を叫んでいたバス案内嬢は、1970年代まで女性に人気の職業だった。しかし、1988年のソウル五輪を前に市民の自律意識を高める政策の一環として、乗客が直接運賃箱に運賃を入れるようになったことから、バス案内嬢は徐々に歴史の表舞台から消えていった。

1981年当時活動していたバス案内嬢 ©チェ・ヨンブ

1970~80年代以降の職業の変化

1970年代には韓国政府が重化学工業中心の政策を展開したため、石油・化学・造船・電子・製鉄・建設産業などが成長する。それにより、大学でこれらを専攻したエンジニアが産業現場において注目を集めた。また、国をあげて輸出に力を入れたため貿易業が主要産業として浮上し、輸出企業は就職先としての人気が高かった。さらに、1970年代には中東地域で建設ブームが起き、これを背景に建設関連技術者が人気職業として脚光を浴びるようになる。1980年代からは重化学工業の人気が下火になり、バイオテクノロジー、半導体、情報通信などの成長可能性が注目されるようになり、これらの産業に対する関心が高まっていく。また、産業用ロボットの導入により自動車や電子産業など関連産業も急成長し、これに伴い、理工系エンジニアなどの専門職が増えた。その一方、1980年代はプロ野球開幕やオリンピック開催などの影響で、スポーツ分野の職業が注目された時期でもある。

1967年に公報部が発行した産業広報ポスター。
建設関連の職業が成長の大きな軸を担っていたことが分かる。
©大韓民国歴史博物館

1980年代以降、技術の急速な進化により、一部の職業は歴史の表舞台から消えた。その代表的なものとして、タイピスト、そろばん講師、電話交換員などがあげられる。近年は、人工知能(AI)の進化により今後単純な反復作業を行う多くの職業が消えるだろうと予測されている。また、高齢化、一人暮らし世帯の増加、消費トレンドの変化などを背景に、過去には想像もできなかったペット葬儀指導士などの職業も登場した。このように、時代の変化に伴って「社会の鏡」とされる職業生態系も絶えず変化を繰り返してきたことが分かる。

インタビュー

教育課 ⾦善美学芸研究官

前号から博物館のメンバーにインタビューを行っている。本号では、教育課で様々な教育プログラムを企画・運営している⾦善美学芸研究官に話を聞いた。

Q. 現在実施している教育プログラムについて教えてください。

当博物館では、2013年から「博物館大学」と題する教育プログラムを実施しています。2018年に「現代史市民講座」に名称を変更し、さらに歴史に焦点を当てた講座として運営しています。今年の前半は、独立前後から最近までの各時代を生きた人たちをテーマにした教育を行いました。日本留学生、北から南に越境した知識人、エンジニアなどを中心に、彼らがそれぞれの時代にどのような役割を果たし、そしてそれが今の韓国社会にどのような意味を持つのかについて探りました。

また、今年の夏には<青年キュレーターアカデミー>の開催を予定しています。これは、博物館学芸研究職を目指す学生たちに進路探索の機会を提供するための教育プログラムです。年に2回、夏休みと冬休みに実施しています。現代史講義や学芸職務教育などで構成されていて、コロナ禍ではオンラインでのみ教育が行われましたが、今夏は現場実習中心の教育を行いたいと考えています。

Q. 大韓民国歴史博物館ならではの教育プログラムは何ですか。また、今後企画してみたい教育プログラムはありますか。

当博物館は、現代史全体を網羅する総合博物館であるため、他の記念館やテーマ博物館に比べて膨大なテーマを取り上げることができます。当然、その分、論争を呼びやすいテーマも多いため、配慮しながら企画しなければなりません。最近は、展示や遺物と連携させた教育プログラムも実施しています。

今後は、受講生が自ら勉強会を作って運営したり、韓国の歴史に影響を及ぼした人たちから直接話を聞いたりする場を設けてみたいと思っています。こうした教育は、市民に、現代史についてより深く知り、幅広い視野を持つ機会を提供することに加え、博物館のPRや近現代史アーカイブの構築にも役立つと考えています。

オンライン教育プログラムの様子

博物館レビュー

開館10周年記念公演

5月28日、大韓民国歴史博物館開館10周年記念公演が野外舞台で行われた。同イベントでは、伝統と現代を組み合わせて新しいジャンルを開拓しているソドバンドとキム・ジュリがすばらしい公演を披露した。公演は当博物館のYouTubeチャンネルでも生中継され、空間の制約を受けることなく、多くの市民が楽しんだ。

  • 公演のハイライト映像 (1)
  • 公演のハイライト映像 (2)

学術イベント

5、6月には対面での学術イベントが行われた。まず、5月25日には、第100回こどもの日記念特別展と連携して「子どもと韓国の近現代:イメージと談論、現実」というテーマで学術大会が開催されている。同イベントは、展示紹介のほか、こどもの日を中心として見た子どもの権利運動の表象、家族の中での女の子など、様々なテーマの発表で構成された。総合討論では、子どものイメージが形成された背景や子どもの人権、大人の視線などについて議論が行われ、現在の子どもの地位や今後の方向について意見が交わされた。

また、6月15日には『戦争と家族:家族の目で見た韓国戦争』の著者、権憲益(キョン・ホンイク)ケンブリッジ大学教授による朝鮮戦争当時の戦死者の遺骨送還と戦争後の追悼と記憶に対する興味深い意見を紹介する講演が行われた。続いて、金聖甫(キム・ソンボ)延世大学史学科教授と聴衆による真剣で熱心な討論が繰り広げられた。

博物館プレビュー

文化公演

大韓民国歴史博物館では、市民とともに楽しめる文化公演を毎月開催している。今夏は2つの公演が予定されている。まず、7月には3,000を超える楽曲を発表し、数多くのヒット曲を残した韓国のCM音楽界の巨匠キム・ドヒャンが、彼の音楽活動にインスピレーションを与えてくれたオールドポップや、作曲時のエピソードなどについて語る予定だ。

金道鄕 ⓒ曺世鉉

8月には、光復節(独立記念日)を記念して大韓民国歴史博物館クラシック公演団による記念公演が開催される。公演内容は、日本の支配から解放され、国権を回復したその日を記憶し、様々な旋律によって光復の喜びと独立の希望を歌うものだ。「アリラン」メドレーのような韓国人にとって馴染みの深い曲から光復の希望と意味が込められた曲に至るまで、多様な舞台を通じて光復の日を記憶し、噛みしめる。

2021年光復節記念公演

光復節を記念して中外日報の検閲本を公開

韓国では、日本による植民統治から解放された1945年8月15日を記念するため、8月15日を「光復節」としている。当博物館では、2022年の光復節を迎え、1階ロビーの展示空間で日本による植民地時代におけるメディア統制の実態を知ることができる『中外日報』の検閲本を公開する。『中外日報』は、1926年から1931年にかけて全1492号が刊行された植民地時代の代表的な民族紙だ。今回の展示では、検閲前後の原本を同時に展示することで、朝鮮総督府による民族メディアへの統制と弾圧を赤裸々に示す。また、検閲のもとで発禁となり、日の目を見なかった文学作品や独立運動に関する記事も展示する予定だ。

『中外日報』の検閲前と検閲後

National Museum of Korean Contemporary History Newsletter 2022年 5, 6月 (64号) / ISSN 2733-7138
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Editor: PARK Sookhee, KIM Hyunjung, HONG Yeonju, KIM Hyewon, YOU Rial
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