2021-5 / Volume 60 / ISSN 2733-7138

歴史の中の物語

私たちが暮らしたドイツ

第二次世界大戦(1939~1945)終了後、新たに誕生した国や植民地支配から独立した国を合わせると85カ国にのぼる。植民地支配と6.25戦争(朝鮮戦争)を経た大韓民国は、そのなかでも最貧国の一つだった。1960年代の韓国の失業率は約40%。韓国銀行(中央銀行)の外貨準備高の残高が2,000万ドルにも満たなかった。(参考:2021年10月時点の韓国の外貨準備高は4,600億ドルを上回る)こうした経済難を解決するために手をつないだ国がドイツ(当時の西ドイツ)である。

当時、ドイツは第二次大戦の敗戦から立ち直り、「ライン川の奇跡」と呼ばれる驚くべき経済成長を遂げていた。しかし、経済発展により職業選択の幅が広くなった副作用で、炭鉱労働者や看護師など肉体労働が求められる仕事に就こうとする者が少なくなった。そこで浮上したのが韓国との協力だ。労働力を必要とするドイツと、失業問題の解消と外貨獲得を目指す韓国の利害が一致し、韓国の歴史上初めて国家間の協約に基づく労働者の派遣が行われたのである。まず、1963年12月に炭鉱労働者の派遣協定を締結。1966年からは、1950年代から民間レベルで派遣されていた看護師や看護助務士(准看護師)を国が派遣するようになった。

一酸化炭素や、火災、爆発によって放出されたガスが溜まった場所を突破する際に使う自己救命器とケース

ドイツで働く労働者からの送金は韓国の経済発展を牽引した。炭鉱労働者や看護師がドイツから送った外貨は合計約1億153万ドル(1965~1975年)。なかでも1965~1967年の送金額は韓国の輸出総額の約2%に当たる金額だった。しかし一方で、炭鉱労働者や看護師の職場環境は非常に劣悪なものだった。炭鉱労働者たちは膝プロテクターや手袋、臀部保護具、ヘッドランプといった簡単な装置に頼って1,000メートル以上もの深さまで潜らなければならなかった。また、看護師たちも、現地の看護師の補助役として雑用に明け暮れたり、最もきついとされるホスピス病棟に配属されて24時間体制で勤めたりした。

1960~70年代にドイツに派遣された炭鉱労働者や看護師たちの多くは現地に残り、今では同胞社会の中心を成している。彼らの一部は中流層以上の暮らしをしており、多くの韓国人2世がドイツ社会のエリートグループに属している。それに対して、韓国に戻った派遣労働者たちの状況はあまり良くない。年金を受給して生活を営むドイツの同胞とは違い、多くが経済、健康、住宅などの問題で苦しんでいる。しかし、幸いなことに彼らの処遇を改善しようとする動きが出て2021年6月に関連法令が制定されたほか、記念館や記念公園、記念塔、記念墓地公園などさまざまな記念事業も推進されている。

元祖ガールズグループ、キム・シスターズ
(Kim Sisters)

K-POPが世界を熱くしている。なかでもBTSは2020年、韓国のアーティストとしては初めてアメリカのBillboard Hot 100で1位になり、この5月に発売した新曲「Butter」は今年のBillboard Hot 100で最長期間1位を獲得するなど次々と新記録を打ち立て、世界的なアーティストたちと肩を並べている。

しかし、アメリカを驚かせた韓国のアーティストはBTSが初めてではない。1960年代にアメリカのテレビ番組に出演したガールズグループ「キム・シスターズ(Kim Sisters)」が元祖だ。キム・シスターズはスクジャ、ミンジャ、エジャの3人からなるボーカルグループで、韓国で初めて「ガールズグループ」というスタイルで活動し、アジアで初めてアメリカ進出を果たした。彼女たちの韓国での活動の場は米第8軍。当時、同軍のステージから多くのスターが生まれたが、キム・シスターズは1953年からこの舞台に立ち、楽器の演奏から歌やダンスまでこなす姿を披露して在韓米軍兵士を魅了した。

1964年に韓国で発売された、キム・シスターズのファーストアルバムのジャケット

1970年の『大衆歌謡』第46集の表紙を飾ったキム・シスターズ

彼女たちの評判はアメリカのプロデューサー、トム・ボール(Tom Ball)の耳に入り、キム・シスターズは1959年、アメリカ・ラスベガスに進出した。言葉も通じない異国の地で、彼女たちは練習に励み、ついにアメリカンドリームを成し遂げた。シングルを出すほか、人気テレビ番組『エド・サリヴァン・ショー(The Ed Sullivan Show)』に出演するなどキム・シスターズの人気はどんどん高まった。その後、1963年に米モニュメントレコードで初のフルアルバムが制作され、翌年には韓国でもフルアルバムを出した。故国を離れて12年目の1970年。コンサートのために一時帰国し、その後もツアーを続けたが、1975年のアメリカでのコンサートを最後に引退した。

1960年代にアメリカという見知らぬ地で血のにじむような努力を重ねて現地のアーティストたちと肩を並べた彼女たちのことを考えると、BTSをはじめとする現在のK-POPブームは突然出現したものではないように思える。

博物館のお知らせ及び行事

時代の鏡に映った私たちの自画像
― テーマ館がオープン

2022年1月、韓国の近現代史を通史的に展示する歴史館と、短期の特別展では取り上げにくい近現代史のさまざまなテーマにスポットをあてる「テーマ館」がリニューアルオープンする予定である。

テーマ館の最初の展示テーマは「ベストセラー」と「広告」。 2つは一見関係ないように見えるメディアだが、いずれも「大衆(消費)社会」の産物であり、現代史の主体である「大衆」の存在を示す証拠であるという共通点から一緒に取り上げることにした。テーマ館1では、光復(植民地支配からの解放)以降の主なベストセラーを通して当時の社会像やその時代を生きた人々の意識を探り、テーマ館2では、人々になじみ深い「広告」という媒体を通して近現代史の中の消費文化を多角的に照明を当てる計画だ。

光復後に人気を博した文法書『ウリマルボン(韓国語本)』(崔鉉培、1937)

『白凡日誌』(金九、1947)

テーマ館1のベストセラー展示は、各時代に「なぜそれらの本が人気を博したのか」を分析することで当時の時代像や人々の考えを理解するために企画したもので、光復後の代表的なベストセラーを検証していく。「テーマゾーン」と「時代の書架」の2部構成で、「テーマゾーン」では、現代史の観点からベストセラーを見たときに特に重要と思われる社会現象や流れを紹介する。また、「時代の書架」では、「テーマゾーン」で取り上げきれないこれまでのベストセラーを展示する。これらベストセラーに関する現象については「移動型透明ディスプレイ装置」でさらに理解を深められるようにする。

「ベストセラーは著者や出版者の個人的な好みではなく、社会全体の構造的産物である」と言われる。これは、ある時代の総体的な姿を大衆の集団的欲求とともに敏感に反映する「時代の鏡」がベストセラーであるという意味だ。来年1月にオープンするテーマ館において、こうした「時代の鏡」を覗き込み、当時の私たちの自画像を発見していただければと願っている。

過去を理解し、未来を見据える歴史教育

大人のための現代史教育プログラム ― 「現代史市民講座」

大韓民国歴史博物館は2013年から一般市民を対象に歴史講座を開いている。これまでテーマ別の講義を行ってきたが、今年上半期からは、現代史の流れを理解して歴史に対する洞察力と見識を高められるよう講義の構成をテーマ講座から通史に変えて進めている。また、新型コロナウイルス感染症防疫指針に従って、今年上半期からすべての講義を非対面で行っている。

下半期の「現代史市民講座」は10月8日から11月24日まで全8回。1940年代の「解放政局」の風景から1990年代以降の民主主義まで現代史における時期別のテーマを8つに設定し、専門家の話を聞いていく。

子どもたちのための現代史教育プログラム
― 「強制動員、まだ終わらない物語」

当博物館では学年別、テーマ別にさまざまな学校連携プログラムを運営している。そのうち小学校4~6年生を対象にした「強制動員、まだ終わらない物語」は強制動員の歴史を理解し、共感し、記憶してもらう教育プログラムで、新型コロナウイルス感染拡大への対応としてオンラインで開催している。

このプログラムは、強制動員の概要を学ぶほか、被害者の証言を通じて当時のことを理解できるようになっており、当博物館展示室の資料を活用して強制動員の実態を伝える。さらに、軍艦島や日本軍慰安婦などよく知られている事例だけでなく、これまであまり注目されなかった「サハリン強制動員」の事例も取り上げる。ついに故国に戻れなかった彼らの事例から、強制動員の問題が解決されないままになっていることを実感できるだろう。この教育プログラムで大切なのは「記憶と共感」である。子どもたちが歴史的事実を単なる知識として受け入れるのではなく、「なぜ強制動員の歴史を記憶し、伝えなければならないのか」を理解して共感できるような構成にしてある。

博物館文化公演レビュー

「クラシック音楽の中の家族の物語」

10月13日に特別展「人、数字:人口で見る韓国現代史」と連携したクラシックコンサートが行われた。「韓国のカルメン」とも呼ばれるメゾソプラノ歌手ペク・ジェウンさんと、彼女の妹であるソプラノ歌手のペク・ジェヨンさんが、人々の暮らしや家族の物語をクラシック音楽で伝えた。国内外の歌曲のほか、私たちになじみ深い映画音楽が披露された今回の公演で、観客は家族の意味を見つめ直すことができただろう。

新パンソリ「庭を出ためんどり」

10月27日には、韓国の創作童話としては初めてミリオンセラーを記録した「庭を出ためんどり」をパンソリにしたフュージョン公演が行われた。養鶏場のめんどり「イプサク」が外の世界で経験する出来事や夢を追う旅が、ソリクン(唱い手)のキム・ソジンと鼓手のキム・ホンシクの息の合った演奏で楽しく語られた。

National Meseum of Korean Contemporary History Newsletter 2021-5, Vol.60
198 Sejong-daero, Jongro-gu, Seoul, 03141, Republic of Korea / 82-2-3703-9200 / www.much.go.kr
Editor: PARK Sookhee, KIM Hyunjung, HONG Yeonju, KIM Hyewon, MOON Soyoung
/ Design: plus81studios

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